「花だけを見て・・・」
2011.04.12
「一輪の花もなく・・・」 報道で知った。 一万五千本の花をトラックに積み東京を発った。
宮城、岩手へと近づくにつれ、「救援」や「支援」と書かれた車が増える。
東北自動車道一関インターを降りると海岸方面へと車が連なる。
私たちのトラックだけが山道へと向かう。 そこに、最初に向かう遺体安置所がある。
棺が並ぶ・・・。 人々が線香に火を灯し、手を合わせる。周りに花を飾った。
チューリップやガーベラ、色とりどりの花々。
「これを1本いただけますか・・・」 オレンジ色のチューリップ。
白髪の女性が手に取った。 この春、小学校に入学するはずの孫を亡くしたという。
「みなさんの花です。ご自由にお持ち下さい」
そう書いたダンボール紙を立て掛けた。
「明かりが灯ったようだ」 そう言ってくれた人がいる。
いつの日か、この町に花が咲くことを祈っている。
一緒に行った友は言うだろう。
「こんな文章じゃ、万分の一も伝わらない」と。
私は安置所を巡った、あの時に覚えた事実を思い出せないでいる。
確かに写真が並べられていた。
身元のわからない人々の変わり果てた写真。
悲鳴のような泣き声が聞こえた。
私もあなたも目をそむけた。
私もあなたも花だけを見ていたのだから。
| ↑ ページ先頭に戻る |